bacon(ベーコン)の謎を突き止めた!【自力でスラングを解明!その道のり】伊敷台英語教室

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高校時代、僕はワシントン州の北に位置するBellinghamという田舎町で過ごした。カナダの国境まで車で20分という国境間近の町である。言うまでもなく、英語に不慣れな丸腰の日本人がアメリカの地でアメリカ人の友人を作るなんてことは至難の業である。しかし、この日は苦労の末、どさくさに紛れて友人となった2名と「カナダ国境を越えてVancouverまでドライブに行こう!」と相成った。

実を言うと、この少し前に同メンバーでVancouverへのドライブを試みたのだが、無知とは怖いものでメンバーの中で唯一日本国籍であった僕が、パスポート不所持、所持金3ドル、入国審査完全スルーでカナダに入国したことが発覚し、Immigration officer(入国審査官)にこっぴどく叱られたのが約1週間前の出来事である。この出来事を難しい言葉では、illegal entry(不法入国)と言うらしい。陸続き国境の弱点を身に染みて学び、この日はパスポートを首からぶら下げ、友人の運転のもとIH-5(州間高速道路5号線)を北上しVancouverへと車を走らせた。車を走らせると程なくして空港がぼんやり見える。この地点からNooksack Riverまでの約6マイル(約10キロ)はカーブのない真っ直ぐな直線道路となる。僕らは幾分ぼんやりした大地に果てしなく真っ直ぐ伸びるネズミ色のハイウェイを文字通り滑るように滑走した。

Vancouverに到着し、その綺麗な街並みにうっとりしながら、あちらこちらと歩き回り、あっと言う間に夕刻となった。「やっぱり行きよりも帰りの方が早く感じるな・・」流れ去る風景を車窓からぼんやり眺めつつ、ふと隣に目をやると遊び疲れた友人が滑走する車中で眠りに落ちていた。空港を通り過ぎ、「このドライブもそろそろ終わりか・・」と思わずつぶやいたその時、寝ていたはずの友人が、むくっと目を覚まし、窓の外を見ながら「I smell bacon here(ここはベーコンの匂いがする)」と意外なことを不意に言い出した。寝起きにしては英語に不慣れな僕でも聞き取れるくらいに滑舌良く、どこか自信に満ちた口調であった。その直後、長い直線道路でスピードに乗って滑走していた車に少しブレーキが掛かった。ちょうど空港からの車がハイウェイに合流する地点での出来事であった。

「I smell bacon here(ここはベーコンの匂いがする)」と言われても、車内のどこを見てもbacon(ベーコン)または、それに類似する食品もないように思われる。その匂いも、それに類似する香りも一切しない。匂いで言うなら車内に過度に充満しているシトラス系芳香剤の腹立たしい匂いが香るだけである。寝起きの「I smell bacon here」に対して運転中の友人は「Uh-oh!(あらら、大変だ!)」と言ったきり、その会話は呆気なく流れ、何処かへ消えて行ってしまった。

Bellinghamに無事到着し、友人2人に「See ya!」と別れを告げた。ステイ先に帰宅し、「今日は楽しかったが、歩き疲れた。」とシャワーを浴び、その日は早々に床に就いた。床に就いて間もなく、友人の「I smell bacon here」という言葉をふと思い出し、「一体あればどういうことだったんだろう?」と布団の中であれこれ考えを巡らせた。

確かなのは、車中にbaconはなかったこと、baconの匂いもしなかったこと、でも友人の「I smell bacon here(ここはベーコンの匂いがする)」という発言に対して、運転中の友人が「Uh-oh!(あらら、大変だ!)」と応対した。一応会話としては成立しているようだ。「この謎解きは面白そうだから自力で解いてみよう」と決めて、取り敢えずbaconという言葉を調べてみようと布団から出て、辞書を手に取った。

 

さすがのライトハウスもbaconはベーコンとしか記載してない。あとは英国の随筆家Baconさんの名前ということになる。

そこで、最近学校で教えてもらったMind Mapping(1つのワードを◯で囲み、その1つのワードから思い付くことを枝のように広げてアイデアを得る手法)を試すことにした。

 

まず最初に、baconは「food(食べ物)」と書いて、その次に、生きてる間は「pig(豚)」と書いた。その瞬間「あっ!」と思い、急いでpigを辞書で調べた。

 

そうかそうか、pigは「豚」以外にも「薄汚い人、意地の汚い人、欲深な人」って意味もあるんだ。「普段はベーコンエッグだ!ベーコンレタスバーガーだ!って言って散々食べといて、少しは恩義というものを感じないのか?」と思いつつ、念のため、最近手に入れた英英辞書でも調べてみた。

 

すると、こんな記述を見つけた。Offensive Slang: A police officer.「なるほど、pigはSlang(俗語)では警察官って意味もあるか、でもどうして豚が警察官?」と思ったその時、運転していた友人のある行動を思い出した。そういえば「I smell bacon here(ここはベーコンの匂いがする)」と言って「Uh-oh!(あらら、大変だ!)」って応じた直後にブレーキを掛けたな。確か、IH-5のSPEED LIMIT(制限速度)は70マイル(110km)で空港からの車の合流地点は45マイル(70km)だったはず。

もしかして、「I smell (bacon=pig=police officer) here(ここは警察官の匂いがする)」って意味だったのかな?その後の「Uh-oh!(あらら、大変だ!)」という発言、その直後にブレーキを掛けて減速したことも何となく辻褄が合う。

それから1ヶ月後、首尾よく、同じメンバーでVancouverへ再度ドライブに行くことになった。このドライブはドライブとはまた別の重大なテーマを秘めていた。その秘めたるテーマとは、前回の「I smell bacon here(ここはベーコンの匂いがする)」との発言があった場所、つまり制限速度が70マイルから45マイルに急激に変化する空港付近の合流地点で、僭越ながら、僕が「I smell bacon here!」と言ってしまうというビッグイベントだ。そこで前回と同じようにブレーキを踏んで減速するかどうかを確かめ、念のために「There!(ほら!あそこに!)」という発言も追加することにした。友人が「Where?(えっ!どこに?)」みたいなことを言えば、それはbacon=policeということが確定する。と綿密な段取りを施し、そんな壮大な裏テーマが密かに進行しているとは知るよしもない純朴な友人2名と共にVancouverへと逃げるように滑走した。

さて、帰り道である。あの日同様、長い直線道路のおかげで思った以上にスピートが乗っている。運転している友人も鼻歌交じりで乗り乗りのご様子である。そろそろ空港合流地点が近づいて来た。僕はおもむろにドリンクホルダーから7upを手に取り、一口含んで喉の調子を整えた。さぁ、いよいよ空港が視界に入って来た。SPEED LIMIT 45の標識を通り過ぎたのを合図に「I smell bacon here!」とあの時の彼のように滑舌良く、自信に満ちた口調でハッキリと言った。すると、運転している友人が「Uh-oh!」と言った後、「You’re right!」と少し取り乱した口調で応答した。「あれ、段取りと少し違うな」と言葉に詰まった直後、滑走していた車が力なく減速した。えーと、次のセリフ「There!(ほら!あそこに!)」と指さした先を見ると、正にSpeed Trap「ネズミ捕り(速度違反取締り)」 真っ只中のPolice officerの姿がそこにあった。

「時すでに遅し」と言うよりは、むしろ「あと一歩及ばなかった」と言った方が言葉としては適切であろう。SPEED LIMIT 45の標識を通り過ぎたのを合図としたのが敗因である。やはり、そこはSPEED LIMIT 45の標識を通り過ぎる前を合図とすべきであった。

Speed Trapに見事に引っ掛かり、重苦しい車内ではあったが、その後は事故もなく、Lucky mistake(怪我の功名)と締めくくった。友人からは、一歩遅かったにせよ「I smell bacon here」と警告を発したことに「Thanks, anyway.(一応、有難う)」と感謝の意を表してもらった。もう1つの怪我の功名は「bacon=police」であることが不幸な形で証明されたことである。

 

予想的中が余程嬉しかったのか、辞書のpigの項目を見るとpig:policeman/I smell bacornとスペルミス走り書きメモが今でも残っている。

 

英語の面白さを知るきっかけをくれた友人、Quy(運転手)Joe(bacon発言者)には今でも大変感謝している。

 

その数カ月後、どしゃぶりの雨と濃い霧という生憎の天気の中、所用でホストファミリーと車で出掛ることになった。すると、車中で楽しそうに喋っていたホストブラザーが、急に静かになり、霧に包まれた窓の外をじっと凝視し出した。そして、首をひねり腕を組んで考え込むような仕草をした後「I can smell bacon here!」と言って、ホストマザーが「Uh-oh!」と反応しブレーキを踏んだ。僕は「はい、はい、そのスラングの意味は知ってますよ!」と得意気にホストブラザーに視線を送ろうとした時、はっと気付いた。「えっ、can?」「警察官の匂いがすることが出来る?」「どういうこと?」

その日以来、canが付加された理由をあれやこれやと考える日々を送ることとなった。

Can+知覚動詞で意外なことが暗に伝わる【思わずハッとしたcanの本性】伊敷台英語教室
あの日以来、canについてあれやこれやと考える日々を送っていた。あの日というのは、どしゃぶりの雨と濃い霧という生憎の天気の中、所用でホストファミリーと車で出掛かけ、車中で楽しそうに喋っていたホストブラザーが、急に静かになり、霧に包まれた窓の...

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